
題名にある椀久とは大坂の豪商椀屋久兵衛の事です。
椀久は傾城松山太夫に入れ揚げ豪遊した挙句、座敷牢に繋がれてしまいます。
松山逢いたさに心乱れ、牢を抜け出し、月夜の松風吹く海岸を彷徨い歩いている所から舞台は始まります。
椀久は恋い慕う松山を思ううちに松の大木の下にまどろんでしまいます。
そこに何処からともなく松山が現れます。
椀久は喜び、在りし日の逢瀬を楽しみます。
しかし楽しい時間も束の間、幻想だった松山は消え去ってしまいます。
残った椀久は、哀しさのあまり一人その場に倒れ伏すのでした。
長唄の名曲に乗せてくり広げられる、儚くも美しい作品です。
皆様ご存知の通り「義経千本桜」の四段目の所作事です。
満開の桜の吉野山を、義経を恋い慕う静御前と、そのお供をする佐藤忠信が義経の元へと向かう道行の舞踊です。
静御前が持つ「初音の鼓」は義経から賜ったもので、実は佐藤忠信は源九郎狐が化けた姿だったのです。
さらにその鼓は源九郎狐の両親の皮で作られた物でした。
その為お互いにこの「初音の鼓」に「純粋で一途な愛情」が見え隠れいたします。
また源九郎狐は「初音の鼓」につい狐の本性が出てしまう所作が舞踊の中の随所にみられます。
春の吉野山を舞台に、静御前の義経への「愛」、源九郎狐の両親を思う「愛」、それぞれが絶妙に重なり合うどこかメルヘンチックで幻想的な作品です。